エビ神 3行ニュース 過去に辛いことあった人向け

楽しく生きるための考え方とヒント集

ぼくらはエイリアンに恋をする。(3)

ルース「まあ。落ち着いてよ。みんな。本当にこのチームに入りたい。おねがいだよ。だいたい、こんな小さな店で戦うつもりなの?ばかなの?他のお客さんの迷惑考えないの?」

ルースの幼い顔に、銃口と電撃棒が向けられている。

ルース「ほら。尻尾しまったよ。ジックっていうんだっけ?ジックごめんごめん。」

ジックはほっとした表情をしている。

マキはぼくの方をちらっと見て、うなづく。

ぼくとマキはお互い、武器をしまった。


店主「でていってくれ……

店主は腰が抜けた状態で、おどおどとぼくらに小声ではなしている。

もはや、最初の明るい店主ではない。

ほかの客は、すぐさま、お勘定をして店をでる。

いい大人2人が少女に武器を突き付けた様子は、店を出るのに十分な理由だった。


ルース「とりあえず店でようよ。あなたたち通報されてるよ。わたしも面倒ごとは嫌なんだよね。ていうか、もうちょっと、考えて行動してほしいんだけど。」


マキはルースの言うことを無視して、話しかける。


マキ「ルースというエイリアンを差し出せば、わたしたちは罪に問われないよ。こっちは面倒事なんて慣れっこなんだよ。」


ルース「どうしてあたしを差し出す必要あるの?誰も傷つけていないよ。あのね、あたし、自分の星に帰りたいんだよね。どこかわからないんだけど、そのうち見つかるかなって。だからさ、あたしのいた星が見つかるまで、チームにいれてほしい。あたし、結構、力になるよ?」

早口がゆっくりになった。

マキは鋭い目つきをした。

マキ「どう思う?ジック。」

ジック「力になるかは分からないけど、ルースにソルが入っている以上、知能に係る遺伝子が地球の環境に適合するよう組み替えられてるわけで、ルースの生まれた星にもどっても、言葉が通じないし、ふつうの生活にもどれないと思うよ。」

ジックは冷静に話す。

ルース「あたし、ソルはいってないよ。」

ルースは初めて悲しそうな表情をした。

ジック「ソルがはいっていないのに、どうして日本語が話せるの?」

ルース「勉強したから。別にこんな言語たいしたことなかったよ。」

ジック「え!!ルースちゃんはもしかして頭かなりいいのかな?ほんと?」

ジックは驚きながらも優しく話す。。

ルース「んー。あたし10年間独りだったし、捕まったことないよ。それでもう分かるでしょ?ていうかどうしてちゃん付け。舐めてんの?ロリコンなの?」

ジックは何故か顔を赤くしている。

ぼく「10年間ひとりだったのかよ」

ぼくは同情した。ぼくも独りだから、気持ちはわかる。

マキ「ルースが捕獲対象の台帳に載っていたら、まずいな。私が今日の合格で資格持ちである以上、速やかに第3委員会へ報告して納品しないといけなくなる。いままで、台帳にのるような悪いことした?」

マキは優しく聞く。


ルース「だからー、あたし10年間ふつうに静かに地下で暮らしてきたんだってば!悪いこともしてないっ!きっとあんたらの方が悪いことしてるよっ!」

マキ「ぐぬぅ。」

マキは変な声を出した。

ぼくは下を向いて軽く笑った。きっと図星なんだろう。


ルース「そもそも台帳ってなに?あたし、ほかの惑星から連れてこられた口じゃないよ!たまたま隕石にくっついてきたエイリアンだから!その時は、小さいメダカみたいなサイズだったけど!」

ルースは顔を真っ赤にして必死に説明した。


ジック「あー!!!だから実施試験見にきてたのか!!」

ジックは合点し、ぼくの方をみる。

店主はジックの大声にうんざりしている。


ルース「お!ジックくん、賢いじゃん。」

ルースはジックの頭の良さに気づいたようだ。

ぼく「どういうことだ?」

ルース「毎日毎日、あたしと同じエイリアンが試験にでてこないか、こっそり武道場を覗いてたんだよ。もしいれば、どこの星なのか聞くためにね!」

マキ「そうね。だがしかし、うーむ。どうしたことか。」

マキは悩んでいる。

ぼく「べつにいいんじゃないの?そのうち見つかるだろ、こいつの産まれた惑星。そそのうち舐めた口きかなくなるだろうし。それに人手は必要だろ?」

マキ「人じゃないけどね……わかった!とりあえずルースはペット扱いで……店主!お勘定!!」


店主「ただでいいから、はやく出て行ってくれ!!」

店主はいままでの鬱憤を晴らすように叫んだ。

ぼくらと一匹のエイリアンはそそくさと店を出た。遠くからここに近づいてくるパトカーのサイレンが聞こえる。


マキ「とりあえず車に乗ろう!夜のドライブあーんど、車中泊だね!一匹増えたし、明日は買い物の日だし、これからは節約するよ!」


マキの愛車に乗った。

ちょっとしたカーチェイスでルースは嬉しそうにしている。誘拐犯止まれ!というスピーカーからの声が聞こえ、ぼくらはなぜか笑っていた。


—————-

森のキャンプ地の駐車場に着いた途端、マキはすぐに寝た。ジックは途中から寝ていたようだ。

ぼくは、車中泊がはじめてのことで、寝付くことができなかった。


ぼく「ルース、起きてるか?」

ルース「起きてるよ。なんなの?」

相変わらず生意気だ。

ぼく「ちょっと車から降りろよ。」

ぼくは助手席に乗っている。

ルースは助手席後ろ側の後部座席に乗っていた。

ルース「ん。わかった。」

2人はマキとジックを起こさないようドアを静かに開き、そっと閉めた。

外に出ると、たくさんの星がちらちらと光っている。


ぼく「どうしておれらだったんだ?今まで何人も合格者はいただろう?」

ルース「やっぱり気になる?自分で考えれば?」

ぼく「気になるから聞いてんだよ」

ルース「まぁ、いいけど。理由はなんか仲良さそうだったからかな。3年ぐらい前から試験を毎日見てきたけど、案外仲の良さそうなチームって少ないんだよ。ビジネスライクっていうの?それ以外のタイプは今日の試験でいうと、じじいみたいな一匹狼か、黒頭巾のような不気味なタイプ。」

ぼく「それでも、おれらみたいなチームは他にもいただろ?」

ルース「いたよ。実際声もかけた。でも、あたしが声かけてもバカにされ続けた。子どもにしか見えないから。ただのファンとか家出娘にしか見えなかったんだろうね。実際あんたもそうだったけどさ。」

ぼく「なるほどね。はじめてエイリアンだと気づいてもらったのがマキだったってことか」


ルース「そういうこと。この地球以外で生まれた生き物だって気づいてもらえることは、すごい嬉しいって今日はじめてわかったよ。」


ルース「自分が存在している実感がわくっていうかね。だから、本気で仲間にしてほしいっておねがいした。」

ぼく「あれが本気だったのかよ」

ぼくは少し笑った。

ルースは短い手を宇宙に向けて伸ばす。

ルース「この星のどれかなのかなー?帰っても仲良くしてもらえるかな?今日はあたしの人生の分岐点。きっと。」


車のドアが開く音がした。

ジック「なんでおきてるのー?ちょっとトイレいってくるねー。」

ルースは寝癖頭のジックを見て、くすくすと笑っている。


ぼく「よし、寒くなってきたし、寝るぞ。」

ぼくらは車の中にもどった。


ーーーーーー


ジックはキャンプ場の小さな汚い仮説トイレで小さい方をしている。

目の前の壁に穴があいており、新聞紙が穴を塞ぐために応急処置として貼られていた。

その新聞紙は黄ばんでおり、なんと10年前のものであったが、しっかりと字は読めた。


日付は210222日。

見出しはでかでかと「エイリアン愛護団体WAF会長のグレイゾン氏事故死」と書かれている。


国際的なエイリアン愛護団体WAFは、先進5カ国で競い合うように連れてこられるエイリアンは保護される権利がある、と中国において発表した。

世界中に会員がおり、エイリアン保護が時代の潮流になりかけていた。

だが、事件は起きた。発表した翌日だった。

エイリアン愛護団体WAFの会長グレイゾンが野良エイリアンに殺された。その動画がネットで拡散された。

動物と違う知性を持つエイリアンは適切に管理するべき、しいては、人類の役に立たせるツールにするべきという、もう一つの大きな時代の潮流にのまれてしまった。

それ以来、会員数は激減した。

先進五カ国が独占するエイリアン産業に対し、不平不満をもつ諸国の有識者が多くを占めていたこともあり、愛護に対するポリシーのない会員は次々と脱退していくことになる。


ジックは、これらの事実は知っていた。

だが、当時の報道内容をみるのは初めてだった。


ジックは、小さい方をだしきったあとも、なにもしまわず、その場で新聞記事を興味深く読んでいた。

ある意味、この事件はジックの願いと逆行した事件ともいえる。


ジックは、トイレから外に出ると、空の星を長い指で数えた。その行為に特に意味はなかった。

「ぼくの願いは夢物語なのかな。今日、マキが殺したエイリアンに対して何も思わなかったんだよな……ぼくも世界のルールに流されているんだ。」

少し嫌な気持ちになってしまったが、車にもどり再び寝た。


ーーーーーーーーーー翌日


マキは朝早く起きた。

キャンプ場の朝は、みずみずしい空気にあふれ、土と草木の匂いを引き立てる。

マキの車は、車体についた朝露のおかげできれいになっていた。

マキは、小さな折りたたみタイプの机とイスをセットし、朝もやのかかる空気の中で、マグカップに入った熱々のブラックコーヒーを飲んでいる。


ぼく「おはよう。マキ。」

ぼくはマキの次に起きた。

マキ「おはよう。ミウラ。眠れたかい?」

ぼく「いや、ぜんぜん。顔、洗ってくるから、コーヒーよろしく。」

ぼくはそういうと、近くの水飲み場でパシャパシャと顔を洗った。

水が冷たい。

ぼくが戻ると、机の上にコーヒーがあった。

湯気が出ている。朝もやと湯気が混ざりあう。

コーヒーに砂糖を入れると、すぐに溶けあった。

ぼく「今日の予定は?」

コーヒーを飲みながらマキに聞く。

マキ「まず、第3委員会本部へ台帳をもらいに行くよ。次に小型宇宙船を買う。時間に余裕があればソルも何本か買うつもりだよ。メインイベントは宇宙船を買うことだね」

ぼく「わざわざ本部にいくのかー。関東区の宇宙船街に行くってことか。まぁ、確かに地方に売ってないからな」

マキ「そう。だから、これから4時間かけて、関東区にいくんだ。」

ぼく「またドライブか……


ルース「マキ、ミウラおはよー」

次にルースが起きた。

ミウラ「おはよう。ルース」

マキ「おはよ。ルース。寝癖がすごいことになってるよ」

ルースの髪の毛がぼさぼさになっている。

ルース「あー髪、洗ってくるー。」

ルース「水つめた!」

ルースの声が聞こえる。

ルースが戻ってくる。苺牛乳が机の上に置いてある。

マキはルースのために缶の苺牛乳を古びた自販機で買っていた。

ルースは苺牛乳を飲みながら話す。

ルース「今日はどこにいくの?」

ぼく「関東区だ。宇宙船を買いに行く」

ルース「おー!」

ルースは嬉しそうだ。黄色のロングスカートから尻尾が思わず飛び出す。

ミウラ「......!

マキはルースの髪をタオルで拭いてあげている。

ルースは気持ちよさそうな顔をしている。

黄色のロングスカートは新緑のキャンプ場と調和していた。


ジック「おはよう。みんな。」

ルース「おはよう!ジック!」

マキとミウラ「おはよう。」

ミウラ「はやく顔洗ってこい。ジック。そろそろ出発するぞ。」

ぼくはコーヒーを飲みきった。

ぼくはルースの使っていたタオルを投げる。

ジック「わかった、ちょっと待ってて。」

ジックはふらりふらりと水飲み場へ向かう。

ジック「うぅ。つめたー。」

ジックの声が聞こえる。

マキはコーラを机に置く。

ジックは戻ってくると、コーラの瓶を開けた。

炭酸の吹き出す何気ない音はキャンプ場に似合う。

ジック「ふはー。うまい。」


マキ「じゃあ。ここに長居してもしょうがないし、はやいところ関東区へ行くよ」

ルース「らじゃー!」

ルースはそういうと、飲み干した苺牛乳の缶を手で握り潰した。

ぼくとジックは頷く。


ーーーーー車中

車中、ぼくらはたくさんの話をした。


マキの話。ムカつく上司がいて、クビになった話。マキは捕獲業として、自由気ままに人生を謳歌したいこと。


ぼくの復讐の話。祖父がエイリアンとその飼い主に殺され、親父が誘拐された話。最高のエイリアンを捕獲して、復讐を果たす夢があること。マキに卑怯な手で、負けてしまったこと。


ジックの願いの話。小さい頃からずっと製薬について勉強してきた話。エイリアンと仲良く暮らせる世界を願っている話。エイリアンに対する理不尽な扱い、理不尽な世界を自分が調製した薬で変えたいこと。昨日の便所の記事を読んで、少し落ち込んだこと。


ルースの過去の話。地方の地下街で、浮浪者に紛れて暮らしてきた話。日本語は浮浪者に教えてもらった話。ルースという名は浮浪者につけてもらった話。10年間、こっそりと細々と生きてきた話。自分と同じエイリアンを探すために毎日、武道場に足しげく通っていた話。マキにエイリアンと気づいてもらえて嬉しかった話。

ーーーーー

4時間はあっという間に過ぎ、昼過ぎに関東区の第3委員会本部に着いた。

東北地区では考えられない人混みだ。

周辺の街並みはきれいではあったが無機質で、つまらないものとなっている。合理性を徹底した結果だ。そんな街並みに愛着は一切わいてこない。

しかしながら、機械的な街並みとは対照的に生き生きとした人の姿や葛藤している人の姿が多くあるように感じる。


マキは本部の重厚な扉を開く。

少し歩くと、受付があった。

受付には若作りをしたおばさんがいる。

30歳半ばだろうか。まだ20代で通用すると強い自覚を持っている雰囲気がある。

無愛想なおばさんだった。

そのおばさんの奥では本部の若い男性職員が、せかせかと電話をしている。


マキ「登録名は【】にするよ。まぁ平たく言えば、。という意味だよ。」


ジックはくすくすと笑っている。


受付のおばさん「登録完了しました。エイリアン捕獲業へようこそ。これが、登録証になります。また、宇宙船購入の許可書でもありますので、大切に保管してください。こちらは捕獲リスト等の電子台帳端末です。こちらは貸出となりますので登録証とあわせて大切に保管してください。ではここにサインをしてください」

受付のおばさんは、機械的に事務をこなす。

マキはサラサラと書類にサインをする。

受付のおばさん「宇宙船のパンフレットも参考までにどうぞ。」

ぼくらに何も期待していない声のトーンだ。


マキ「よし。ついに台帳が手に入ったよ!」

ぼくとジックは、立ちながら、その台帳に掲載されているものを見る。

となりでルースが見たそうに、ぽん、ぽんとジャンプをしているが画面まで、視線が届かない。

エイリアンとその特徴、惑星名とその座標、捕獲した際の報奨金、依頼を受けている業者名など、様々な情報が載っている。特に驚いたのは惑星の情報だ。空気環境の分析値から、植生や食物連鎖の表まで掲載されていた。

なお、データ更新は即時行われており、捕獲に係る報奨金は早いもの勝ちとなっている。

ジック「たくさんの依頼があるね〜。これに載っているエイリアンは野良とは一線を画す強さなんだろうね。」

ぼく「エイリアン写真の枠の色はどういう意味なんだ?」

ルースは先程からポンポンとジャンプをし続けているが、画面に視線が届かない。

マキ「それは、危険度判定だ。無色は危険度不明を示しているよ。赤、いわゆるレッドが最高クラスと言われているよ。上から、赤、橙、黄、青、緑だ。つまり、わかるな?」

ぼく「ああ。おれはレッドを捕まえればいいんだろ?報奨金もいいようだしな。」

ジック「捕獲済のリストにこの前の青い犬も載ってるよ!うわー、緑だ。グリーンってことは大したことなかったのかー。あー!報奨金100万円になってるけど、貰ってない!」

マキ「あー、それか。この前、わたしの口座に振り込んだよ。それは宇宙船購入の足しにするから。」

マキはつらつらと話す。

ジック「なー!勝手に!」

ぼくもマキに一言言おうかと思ったが、レッド指定のエイリアンの写真を見て興奮していたため、過去の報奨金なんてどうでもよくなっていた。

ジック「依頼主もたくさんいるね。」

依頼主は主に総合商社、各国の製薬会社、国家にぶらさがる企業など、さまざまだ。

ある程度、依頼主を見れば、捕まえたエイリアンの利用目的はわかる。なお、食物連鎖1位と記載のあるものは、大概、決闘用エイリアンでレッド指定からイエロー指定となっていることが分かる。

ジック「この台帳、ぼくが持っているよ。マキ失くしそうだし。」

マキ「そうだね!ジックに任せるよ!台帳を見て勉強してくれ!」

ルースは顔を真っ赤にして、ポンポン跳ねながら叫ぶ。


ルース「あたしにも見せろっ!」


マキ「そっか。ごめんごめん。ルースと同じエイリアンはいるかな?」

マキは申し訳なさそうに話す。

ルースはじっくりと端末を見たが、ルースと同じエイリアンはいなかった。

とても残念そうな顔をしている。


ジック「ルースちゃん!次は宇宙船街だよ!」

ルース「おー!宇宙船はやく見たい見たい!」

ルースの表情は楽しそうな表情に変わった。


マキはジックの肩を軽く叩き、よくやったと言いたげな表情をした。

ルースを先頭にぼくらは宇宙船街に向かう。


宇宙船街に着くと、たくさんの人がいることが分かる。


大きな声で営業をする店主、いいスーツを着飾った商社マン、浮浪者らしき怪しい男。ペットエイリアンを太い鎖でつなぎ散歩をするカップル。社会科見学の小学生の列も見られた。

屋台も出ており、ちょっとしたお祭りのようだ。

モデルハウスのように宇宙船を陳列しており、実際に中に入り吟味することもできる。

ルースは目を輝かせている。


マキ「予算は700万円だよ!」

マキは話しだす。

ジック「ちょっと待ってマキ……値札見なよ。安くても5000万円だよ……

ぼく「おい。どうするつもりだ。」

マキ「君たち!貯金はいくらあるかね?」

マキはぼくらを睨む。

ジック「んー、15万円ぐらいかな。あとはおばあちゃんが管理してるからなー」

ぼくはジックの貯金額に驚いた。

マキ「ミウラは?」

ぼく「1万円だけど」

マキはぼくの貯金額を聞き驚いた表情をしたが、その後すぐに笑いを堪えているのが丸わかりだ。

ジック「はぁん?どうやって一人暮らししてきたんだよ。」

ジックは時々、露骨にムカつく言い方をする。

マキはルースの方を見る。

ジック「マキ!ルースを見るな!」

ルースは大きい目で、かわいくマキを見つめる。

ルース「あたしは2万円あるよ!文句あるか!」

マキ「ミウラより持ってるじゃん!ミウラはだっせえな!はっはっは!」

マキは笑いだした。

ジック「10歳より貧乏なミウラかあ。たしかにそれはないなあ。」

ぼく「……

ぼくは根に持つタイプである。


マキ「まぁ、きみたちに貯金がないのは折込済みさ!ここにある宇宙船はぜんぶ新品だから高いんだよ!さぁ少し歩くよ!」

マキを先頭に歩きだす。 

宇宙船街から少し歩くと裏宇宙船街と呼ばれる区域がある。

マキ「着いたよ!」


そこにはボロボロの錆びた宇宙船が砂利の上に無造作に並べられている。

掘り出し物を探すメカニックマニアや今にも部品を盗めないかと様子を探る少年たち、だらしない格好をした警察官や何故か下着姿のロボットなど、さきほどの宇宙船街とは、まったく空気が違う。

少年の1人は、ぼくたちの姿を見ると路地に入り、誰かとと話している。怪しい行動だ。

ここは、いわくつきの宇宙船を販売するアンダーグラウンドの世界だった。


マキ「おぉ〜安いねぇ〜!」

マキはアゴを使ってぼくらに方向を示す。

マキの視線の方向を見る。

「中古600万円※設定した座標のとおり、ワープできないことが時々あるため注意!ランダム注意!」

ルース「ランダムって、かなりまずくない……?」

ジック「ありえないよ……

マキ「これとかはどう?」

「中古450万円※事故船。過去に3回原因不明の宇宙空間での分解事故あり!」

「中古300万円※片道分の燃料しか入らないので注意!」

ぼく「おい!マキ!!」

ルースはこのふざけた中古宇宙船のコメントにけらけらと笑っている。

楽しそうだ。

どこかから視線を感じる。

すると、おばあちゃんが優しく話しかけてきた。

怪しいおばあちゃん「おやおや、きみたち、宇宙船を探してるのかい?何用だい?」

ジックは怪しむ。

マキ「エイリアン捕獲業のための宇宙船を探してるんだけどね!」

マキはまったく怪しまず、応答する。

怪しいおばあちゃん「ほっほ!若いのによく国家試験受かったねぇ。予算はどのくらいだい?」

マキ「500万円!」

ジック「……!さっきより安く……!」

マキはジックの口を塞いだ。

怪しいおばあちゃん「ほっほ!それならこっちにおいで。」

マキはついていく。

路地裏を進むと、そこに中古ではあるが錆びていないシルバーの宇宙船があった。

赤や青、黄などカラフルなトタンでつぎはぎされた壁に囲まれた袋小路に宇宙船はあった。

マキ「おお!ちゃんと乗れそうな船じゃないか!」

宇宙船の鏡面仕上げにトタンのカラフルな色が反射している。

怪しいおばあちゃん「どうだい?500万円ちょうどだ。ただし、そこのお嬢ちゃん、いや、そのエイリアンをここに置いていく場合じゃよ?」

おばあちゃんは訳のわからないことを言った。

怪しいおばあちゃんは皺だらけの目でルースを見つめる。

ルースはマキの後ろに隠れ、マキの作業着を小さい手で掴む。

いつの間にか、ぼくらの後ろに筋肉が隆々とした男が立っている。用心棒だろうか。その男は整備士のような格好をしている。

トラブルの匂いが、ぷんぷんとたちこめる。


マキ「てめえは、ばばあのくせに、とんだ食わせ物だな。さてと、どうしようか。」

ぼく「おい!マキ!渡すつもりじゃないだろうな!」

マキ「おい。ばばあ。どうしてこのエイリアンが欲しい?わたしの大事なペットなんだけどねえ」

怪しいおばあちゃん「おや。年配に対する言葉遣いが悪いようじゃ。もう二度とばばあ呼ばわりすんじゃないよ、もう二回、おまえさんはわしに対してばばあ呼ばわりしたんじゃ。おねえちゃん。わかったね?3度目はないよ?」

怪しいおばあちゃん「おい!ノリオ!サメオをつれてくるんじゃ!」

ノリオという用心棒らしき男に指示をだす。


トタンのドアから出てきたのは、一匹のエイリアンだった。

そのエイリアンは、サメのようなエイリアンで大量の蝿がたかっている。

ジックの持っていた電子台帳がアラームを鳴らす。

台帳アラーム「ピピピピピ!!このエイリアンは台帳に掲載されている捕獲対象です。ピピピピピ!!ソルに反応しました。イエロー指定のエイリアンです。」

怪しいおばあちゃん「ほっほ!サメオはその少女と繁殖したいって聞かなくてねえ。サメオの好みみたいなんじゃよお。」

サメオ「ふへへへへ。さっき見たとき、一目惚れしたよぉ。ううううう。ほしいよお。」

怪しいおばあちゃん「わかったかい?こういうことじゃ。素直に引き渡すなら、ばばあ呼ばわりしたことを水に流してもよいぞ」

マキ「はあ。ほんとにろくでもないな。このくそばばあは。」

怪しいおばあちゃん「……!なんとな!また、ばばあ呼ばわりしたかい?3度目じゃぞ……!」

おばあちゃんは怒りで顔が赤くなる。

怪しいおばあちゃん「無理やり、おまえの持っている500万とその少女を奪うことにするかねえ!このおねぇちゃんにはおしおきが必要じゃな!!サメオやっちまいな!」

おばあちゃんは、豹変した。

サメオは息巻いている。

まぁ、こんな展開になるだろうとぼくは思っていた。


ぼく「おい。ばばあ。最初から強奪するつもりだったんだろうが。マキよかったな。これでただで宇宙船が手に入るぜ。」

ジック「はあ。ぼくらはトラブルに巻き込まれやすいよね。ていうか、ミウラ。それじゃあ、ぼくらが強盗みたいになっちゃうよ。」

ルース「もしかしてかわいいあたしのせい?ねーマキ。この状況、大丈夫なの?そのサメオ、キモいんだけど。勝てるの?」


マキ「大丈夫だよ。あたしがチームを守るから。」


マキはエイリアンの前に立ち、電撃棒を取り出す。

ジック「マキ!気をつけてね!イエロー指定だよ!この前の試験のエイリアンとは比べものにならないよ!」


怪しいおばあちゃん「ぐだぐた喋ってんじゃないよ!サメオ!はやく、このおねぇちゃんをやっちまいな!」

サメオ「覚悟しろぉい!」

マキは電撃棒のスイッチを入れて構えた。

サメオはマキに向かって猛進した。


“ドスン!!”


金属音と重低音を混ぜたような音が袋小路で鳴り響く。

銃弾は、緊張していた空気をびりびりと引き裂いた。

風圧でマキの髪が揺れている。

銃弾はマキのこめかみの近くを通ったようだ。


サメオの頭が90度、後ろに曲がり、既に死んでいる。

サメオは悲鳴をあげる暇もなかった。


銃口からは白い煙があがっている。

ぼくは話す。

ぼく「おい。マキ。知ってるか?先手必勝の強さを。おれの勝ちだ。」


ぼくは続けて話す。

ぼく「おい。ばばあ。主人公はだれだ?マキじゃねえ。おれだろうが。」


銃弾はエイリアンの頭を貫通し、黄色いトタンが折り曲がり食い込んでいる。飛び散った赤い血液は黄色いトタンを上塗りした。


この場にいる全員が、ぼくの方を見ている。